2018年1月4日木曜日

届かなかった恋文を【我がいとし子へ】

彼岸においでになる我が君よ。
此岸より文をお送りすることをお許し下さい。

貴方様は覚えておいででしょうか。
貴方様が私の手から零れた恋文を読んで、
大層満足げに微笑まれていたことを。
それらが全て届かなかった、否、届けなかったことを承知の上で。

故に。
また我が君に読んでいただけるように、
また書こうと思うのです。
届かなかった恋文を。
届けなかった恋文を。

お手に取り、どうぞご笑覧くださいませ。


次の文は決まっているのです。
我がいとし子の事。


我がいとし子。
そう、我夫(わがつま)の事で御座います。

あの子は、愛された子でした。
色んな人に愛された子でした。
けれど、人一倍苦労した子でもありました。

愛された子故に、その苦労も思い出になったようですが…。
苦労の割に、光差す方へ、光差す方へと歩いておりました。
暗がりを好んで、陰から陰へと動く私とは正反対に。

それを呼び止めたのは、確かに私で御座います。
最初は、ほんの気まぐれに過ぎませんでした。
光差さぬ道もあるのだと教えたくて。
その結果、絆されたのも私。
あの子が、一生懸命に応えてくれたから。

光差す方へ一緒に行こうと、強請ってくれたから。
あどけない子供のように、私の手を引いて。
明るい方に行こうと。

だから、私はあの子を夫にしたのです。

陰へ陰へと動く私は変わりません。
結婚しようと、どうしようと、この陰が私の生きる道なのですから。
けれど、それが前程は辛くないのです。

あの子が光差す道を往くのなら、その陰の道を私が往くのです。
互いの足裏を踏み締めながら、同じ方向に向かって往く。
我がいとし子は陽の道を。私は陰の道を。
夫婦で陰と陽を踏み締めながら。


さあ、どうぞ御笑覧あれ。
ええ、我が君。
我夫は、この様な漢なのですよ。
お気に召して頂けましたかしら?

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