彼岸においでになる我が君よ。
此岸より文をお送りすることをお許し下さい。
貴方様は覚えておいででしょうか。
貴方様が私の手から零れた恋文を読んで、
大層満足げに微笑まれていたことを。
それらが全て届かなかった、否、届けなかったことを承知の上で。
故に。
また我が君に読んでいただけるように、
また書こうと思うのです。
届かなかった恋文を。
届けなかった恋文を。
お手に取り、どうぞご笑覧くださいませ。
次の文は決まっているのです。
彼の方の事。
覚えておいででしょうか。
貴方様が私に言ったことを。
「愛ちゃんは○○さんが好きなんだよね?」
その方の事で御座います。
ええ、仰る通り。
お聞きになった時には、咄嗟に誤魔化しましたが。
私は彼の方を女として想っておりました。
けれど。
確かに逢瀬も御座いました。
肌身を晒して睦みおうた日々も御座います。
けれど。
この肌身に幾度となく紅い花と白い花を咲かせようとも。
幾度彼の方と睦みおうたとしても。
どれほど私が彼の方を想ったとしても。
彼の方に契る気持ちがないのならば、
彼の方と私の間に通うものはないのです。
彼の方と契る事を夢見るのが、私の至上の幸せで御座いました。
なれど。
それは儚い夢。
その後はもうご存知でしょう。
恋の行く末 松葉の末掛けて
二心を持ちながら、肌身を晒す事のなんと愚かな事か。
愛しながら、憎みながら。
其れでも離れられぬ己が身の上を嘆きつつ。
私は、彼の方を想ったのです。
一夜で咲いた恋の花は、私の想いに焼かれながら、
ゆっくりと枯れていき、そして散ったのです。
散り際に、忘れ得ぬ傷を残して。
もしも彼の方がこの文を読んだなら。
きっと、己の事だと気付かないでしょう。
傷を残したなどと、彼の方は考えてもみないでしょうから……。
さあ、どうぞ御笑覧あれ。
二心の片割れ?誰に抱いたか?
貴方様ですよ、我が君。